- 09:21 ペトロが「ナザレのイエスがキリストである!」と叫んだ時、当局はこの表現行為が秩序と安寧を乱すとしてペトロらを逮捕し、自由刑と身体刑を課した。このときペトロは、国法の禁止を受けても自分は表現行為を続行する覚悟である、と宣言した。かくして国法の規制と表現の自由という問題が始まった。
- 09:37 アタナシウスが「御子は神である」との表現行為を行った時、「御子は被造物である」とする当時の多数派(アリウス派)はこれを問題視して、アタナシウスは自由刑を課され、その後も亡命の生活を余儀なくされた。だが、アタナシウスの表現行為が正しいとされる時代が来た。
- 10:02 「ナザレのイエスがキリストである!」と表現して自由刑や死刑を受けていた、かつての少数派が、時代が転じて多数派になると、今度は自分と異なる表現行為をする者に対して自由刑や死刑を課すようになった。カタリ派など「イエスは神の子かキリストの子か」という二択問題に間違えただけで罰せられた。
- 10:26 人々が聖書を翻訳し、独自の聖書の解釈を表現すると、当局は自由刑と死刑で罰した。ティンダルは聖書を英訳して火刑に処された。宗教改革者が「教皇は聖書の権威に劣る」と宣言した時、事態が転じた。多数の翻訳、多数の解釈、多数の表現の時代の到来である。西方世界はパンフレットの洪水となった。
- 11:07 多数の翻訳、多数の解釈、多数の表現の結果、多数の信仰共同体が生まれた。多様な教団教派の到来である。それは次に、寛容の時代へ、つまり、自分と異なる表現行為をする者を自由刑や死刑の威嚇で脅かさない時代。他者の内心の自由のみならず、他者の表現の自由をも尊重する時代の到来である。
- 12:09 旧世界おいて表現行為を制限され、 新世界に表現行為の自由を求めて移民した少数派は、多様な少数派を「自由」の理念で統合する人工国家を樹立した。E pluribus unumがその標語である。こうして、宗教的な表現行為の自由は、政治的な表現行為の自由となって行った。
- 14:14 最初、宗教的な表現行為の自由であり、次に政治的な表現行為の自由となり、それが、文化的な表現行為の自由となったのは、1960年代に始まる対抗文化運動(カウンターカルチャー)における合衆国憲法の解釈をめぐる論争であった。こうして、非キリスト教的価値観の表現行為にも自由が保証された。
- 15:01 非キリスト教的価値観の表現行為の自由が確立されて行く過程で、公共空間におけるキリスト教的な表現行為は漸次撤去されて行った。まず創造論が、次いで祈祷が、公立学校から撤去され、さらに、クリスマスツリーがホリデーツリーに、メリークリスマスがハッピーホリデーに改称された。
- 15:36 本邦は憲法モデルを、王室が国教と結びつく旧世界型から採用した。大日本帝国憲法29条は「臣民は法律の範囲内において言論、著作、印行、集会及び結社の自由を有する」として、表現行為を法律で制限する。新世界型である合衆国憲法修正第1条が表現行為を妨げる法律を作ることを禁止するのとは真逆だ。
- 15:49 先の大戦で敗北した本邦は、表現行為の自由を法律で制限する旧世界型憲法を脱して、表現行為の自由を抑止する法律の制定を禁止する新世界型の憲法を移植されたわけである。憲法21条の「一切の表現の自由の保障。検閲の禁止。通信の秘密の不可侵」がそれである。
- 15:56 現状において日本国憲法第21条は空文であり、大日本帝国憲法第29条が廃止されずに、そのまま維持されていることになりかねない。表現行為の内容が法律によって規制され、しかもその法律は官僚の裁量範囲が大きいために、事実上官僚が国民の表現行為の様態を決定するという、旧世界より古い世界だ。
- 16:12 合衆国憲法修正第1条「言論と出版の自由を制限する法律を制定してはならない」これに倣い日本国憲法第21条も「表現の自由を制約する法律を議会は制定してはならない」と修正する必要があるだろうか? ないのだ。憲法に反する法律は法理上無効であるから。だが無効が有効になるのが本邦である。
2010年3月17日
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